地域の特性を生かしたドローンの普及拡大に向けて 宮田 敏美

【JDALINEマガジン 2022年7月18日掲載】

皆様、こんにちは。根室支部の宮田です。
今回は、私の地元、根室半島に隣接します知床半島で発生した悲惨な海難事故について、私なりに感じたことをお話しします。

令和4年4月23日午後2時過ぎ、『エンジンストップ!航行不能!船首が30度傾いている!』との悲痛な救助要請を最後に乗客・乗員 26 人が乗った観光船がアイヌ語で「地の果て」と称するオホーツク海に面した知床半島沖合水深 120 メートルの海底に沈みました。4月でも海水温度が僅か4℃の極寒の荒れ狂う海でした。

当時は、寒冷前線が通過した直後で風力が一時的に弱まる地元漁師が言うところの『偽りの晴れ間』の出航でした。漁師は長年の経験からこの静けさは一時で、すぐに風速か強まる事を熟知しており、当日の漁を取り止め、観光船長にも「今日は止めておけよ」と伝えていながらの無謀な出航でした。

海難事故発生後の捜索状況は、連日波打ち際で岩礁に叩き付けられながら懸命に捜索するダイバーの方々の姿を日本中の多くの皆さんがテレビ放映で見守っておられたと事と思います。

その後、捜索範囲も広がり、防災ヘリコプター等による上空からの捜索、海上保安庁や海上自衛隊、道警警備艇による海上捜索、そして無人潜水艇が船体捜索に当たりました。

日数の経過に伴いご遺体は知床半島を挟んで反対側の羅臼町の沖合にまで流されて発見され、その後は僅か20キロしか離れていない北方領土の国後島周辺でもロシア側に発見されました。
そのため、漂流の範囲は北方領土の周辺や南下して根室半島までの広い範囲に及んでいる可能性が出て来ました。

北海道警は、海岸沿線の約 70 キロに及ぶ広範囲を4日間かけて徒歩で捜索しました。しかし、この捜索は、体重 500 キロ級のヒグマが約 500 頭も生息するエリアなのです。

観光船の目玉も海岸線で遡上する鮭を捕獲するヒグマの姿や肉食で海の最強生物シャチの群れを船上から見学して大自然を体感してもらうもので、その遭遇率は驚きの 94 %のエリアでした。つまり、ヒグマだらけなのです。
この様な危険エリアを警察官は、今の時代に熊よけ鈴を鳴らしながら熊撃退用スプレーを携行するだけの脆弱な装備で命がけの徒歩捜索を挙行しました。

捜索に参加していた船上捜索隊からは、海岸線には、毎日ヒグマに遭遇したと報告がなされたそうです。また発見された観光船内の捜索のために水中カメラを備えた潜水艇が潜水し、船体を引き上げるために、サルベージ会社の潜水士が危険な飽和潜水等を行ったのが、現場における捜索活動の経緯になります。

今回の様に大きな危険が伴って、極めて困難な捜索活動に際しては、空中ドローンと水中ドローンの同時運用が極めて有効と思います。令和3年6月には、航空法施行規則が適用されて 緊急用務空域における「特例適用者」が明確にされました。
しかし、具体的にドローンを用いた捜索活動への参加となりますといきなりハードルが高くなります。実際の運用面で地元官民による細かな取り決めが必要で、まだまだ整備されなければ GO サインが出されないことが分かりました。

南海トラフや千島根室沖の巨大地震は今後 30 年で 80 %の確率と言われております。各地で防災対策が講じられつつありますが、地下プレートは、今現在も刻一刻と巨大なエネルギーを溜めつつあり、いつスイッチが入るかだけのクライシスなのです。もはや「確率の問題ではなく時間の問題」であると考えるべきです。次回以降で、この課題について引き続きお話をしたいと思います。

今回、捜索活動に参加した海上自衛隊掃海艇に乗船する機会があり、船上で大きな河豚の様な形をした無人潜水艇を撮影しましたので、皆さんに紹介します。